【答】
持分の意義
持分には2つの意義があります。それは①組合員が組合員として組合に対して有する権利義務の総称、すなわち組合員たる地位を意味する場合と、②組合員が組合財産に対して共有部分として有する計算上の価額を意味する場合とがあります。たとえば、法律上「持分の譲渡」という場合の持分は①の意味であり、「持分の払戻し」という場合の持分は②の意味になります。 しかし、この意義の異なる持分は、お互いに無関係のものではなく、出資を基礎とする組合員の権利義務が、法律的には①の持分と解され、経済的には②の持分として評価されるので、①の持分は、②のそれを含めたものといえます。
持分の算定
持分の価額は、事業年度の終わりにおける組合財産によって算定されます。この場合の組合財産の評価は、時価によって行われるべきとされていますので注意を要します(昭和44年2月11日最高裁判決=中村センター(協)事件)。 持分の算定方法については、法は特別の規定を設けていませんから、定款で自由に定めることができます。一般には、その方法として、改算(均等)式と加算(差等)式の算定方法があります。 改算式持分算定方法とは、出資1口につき各持分が均等となる方法で、毎事業年度ごとに持分を改算するもので、具体的には、組合の正味財産の価額を出資総口数で除することにより出資1口についての持分額を算定する方法です。 したがって、簡便な方法ではありますが、この方法によるときは、新たな組合員が加入する場合および組合員が増口する場合の出資払込みに際しては、持分調整金を徴収する必要が生じます(脱退者の持分の払戻しについて、定款で各組合員の出資額を限度とする旨定めている場合は持分調整金を徴することはできません)。
加算式持分算定方法
とは、各組合員について事業年度ごとに、組合の正味財産に属する出資金、準備金、積立金その他の財産について、その組合員の出資口数、払込済出資金額または事業の利用分量を標準として、算定加算(損失の場合は、その填補額を控除)していく方法です。 したがって各組合員の持分は、加入の時期、事業の利用量等により不均一となり、その計算も事務処理も複雑となるため、持分の全額払戻しまたは多額の持分の一部払戻し方法(帳簿価額以上の額を限度とする払戻し方法)を採用するような組合では意味がありますが、出資額限度の払戻しが多い現在においては、加算式採用の意味は少ないものと考えられます。
持分の譲渡
持分は、これを譲り渡すことはできますが、組合は人的結合体でありますので、株式会社の場合とは異なり、持分の譲渡を自由に行うことは許されません。すなわち、組合員がその持分を他に譲渡しようとするときには、その譲受人が組合員か非組合員かどうかを問わず、組合(理事会)の承諾を得なければなりません。 持分の譲受人が非組合員であるときは、その者は、加入の例によって譲受けの手続きをとり、組合においても、その承諾等について加入の場合と同様に取り扱わなければなりません。すなわち、譲受人は組合員資格を有する者でなければなりませんし、組合に譲受加入の申込みをして、その承諾を求めることになります。 一方、組合においても、その譲受人および譲受け自体について正当な理由がなければ、これを拒否し、または不当に困難な条件を付することは許されません。 持分の譲受人は、その持分についての譲受人の権利義務の一切を包括的に承継するのであるから、個々の債権債務等についての譲受行為を必要としませんし、非組合員である場合には、その持分の譲受行為が完了したときに、当然に組合員となり、出資金等の払込みは必要とされません。
持分の払戻し
組合員は、脱退と同時にその持分の払戻請求権を取得し、定款の定めるところにより、組合に対しその持分の全部または一部の払戻しを請求することができます。 この払戻請求権は組合員の絶対権であるので、定款の定めをもってしてもその権利の全部を奪うことは許されませんが、定款の定めにより、その払戻しの対象を持分の一部に限ることはできるものと解されています。 一部払戻しの方法としては、出資額限度方式、簿価額限度方式、帳簿価額に土地の評価益の一部を加算した額を限度とする方式等が考えられますが、少なくとも払込済出資金額を下回るような払戻しの方法は許されないと解されております。しかし、除名による脱退者の払戻しについては、その規律違反に対する制裁として、定款の定めにより、払戻額を半額とすることが通例行われております。
▽脱退組合員の持分の払戻し
Q=組合の帳簿価額による正味財産は出資額の3倍。事務所用土地建物は帳簿価格200万円が時価2000万円程度になっている。この場合、出資額60万円のA社が脱退したときの払い戻し金額はいくらか。また、出資額80万円のB社が除名処分となったが、この場合の持分払い戻し額はいくらか。 A=脱退した組合員に対する持分の払戻しは定款の定めるところによります。この持分計算について原価主義(帳簿価額)か時価主義かについては議論がありまいたが、とくに不動産を所有する組合では影響が大です。いわゆる中村センター事件と呼ばれる訴訟で、最高裁判決は先に述べたとおり、「時価による計算」の説をとったことで、慣例であった原価主義が覆されました。土地建物の評価益は未実現利益のため、この判決通りの払戻しをすれば、不動産を処分しない限り、払戻し資金の捻出ができず、脱退者が続けば、組合の存続も困難になり、解散せざるを得ないことになりかねません。 このようなことにならないために、現在では持分計算は時価で行なったとしても、「払戻しは出資額限度とする」旨の定款規定にしている組合が多くなっています。 したがって、定款に「出資額限度」としてあれば、A社に対する払戻し額は60万円。もし、これがなければ、土地建物を2000万円と評価したうえで計算した額を払戻さなければなりません。 なお、除名者に対する払戻し額も定款の規定によりますが、一般には「除名による場合は半額とする」と定めた定款が多いので、そのような定めであれば、B社の場合は、40万円の払い戻しでよいことになります。
▽行方不明組合員の持分
Q=組合員C社が行方不明となった、その持分の取り扱いについて、(C社の組合に対する負債はない)。 A=出資持分の整理は、組合員の脱退が前提です。行方不明組合員には資格喪失の脱退か除名による脱退が考えられます。もし行方不明と同時に事業を廃止しているのであれば資格喪失として処理し理事会で資格喪失を確認した旨議事録にとどめると同時に内容証明郵便で持分払戻請求権が発生した旨通知します。除名は総会の特別議決を要し、除名しようとする組合員に対する通知や弁明の機会付与等の手続きが必要になります。 いづれにしても、脱退によって組合員に持分請求権が発生しますが、この請求権は2年間で時効により消滅しますので、時効まで未払持分として処理し、時効成立を待って取り崩し、一般の金銭債権が消滅した場合と同様に益金として処理することになります。
▽脱退組合員の赤字負担
Q=組合員D社が組合を脱退した場合、組合に赤字があるときは、この負担をしなければならないか。 A=組合法第10条第5項は、「組合員の責任は、その出資額を限度とする」として有限責任であることを明確にしています。ところが組合法20条第第3項は、脱退者の持分の払戻しについて「持分を計算するにあたり、組合の財産をもってその債務を完済するに足りないときは、組合は、定款の定めるところにより、脱退した組合員に対し、その負担に帰すべき損失額の払込を請求することができる」としているため、組合の赤字をD社が負担することを義務付けているかの感を与えることがありますが、前述の「有限責任」が優先し、第20条第3項の払い込み義務は「出資額を限度」とするものであることから、D社に未払込みの出資分が残っている場合に限り、出資金の未払い額の範囲内で負担を求めることができます。この場合、定款にその旨の規定が必要です。
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