テーマ : 2020 東京オリパラに向けたおもてなしの展開について
~組合オリジナル日本酒づくりの検討会~

補助事業名 令和元年度連携組織活性化研究会
対象組合等 千葉県旅館ホテル生活衛生同業組合
  ▼組合データ
  理事長 篠原 正人
  住 所 千葉市中央区富士見2-3-1 塚本大千葉ビル2階
  設 立 昭和33年2月
  業 種  
  会員 333人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 経営支援部(℡ 043-306-3283)
専門家 株式会社ローカルカンパニー
代表取締役 伊藤 隆光(中小企業診断士)

背景と目的

 2019年7月、限定酒「特別純米 魚好(さかなずき)」は誕生した。千葉県の酒蔵による、千葉県産のお米を使用した、宿泊者限定のお酒は、2019年に千葉県を襲った台風、2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響を受けながらも順調に出荷数を伸ばしている。
 当プロジェクトが立ち上がった2018年は二年後に開催される予定であった東京オリンピック2020を控えて、世界各国からの来客をもてなすためそれぞれに気合の入っている時期であった。組合への加盟施設は330軒あり、自前の漁船で本格的な釣りを体験できる宿、夕暮れの波音がムード満点なビーチリゾート、地元の新鮮なイワシを揚げ立てふわふわで提供する温かい女将が守る宿など、バラエティに富んでいる。個性豊かな組合員からは「千葉県を訪れた宿泊客をもてなすために何かできることはないだろうか?」といった声が叫ばれていた。旅行の楽しみの一つとして、現地の食を楽しむことが挙げられる。千葉県を訪れる旅行者においても例外ではなく、特に千葉の海から獲れる海産物に対する期待値は高くなっている。これまでも豊富な海の幸を提供してきたものの、さらに満足度を高めるために考えたアイデアが食と酒のコラボレーションだ。千葉県には約40の酒蔵があり、現地でしか楽しめない体験の提供を目的として、組合オリジナルの日本酒ブランド作りが立ち上がった。

事業の活動内容

①コンセプト設計

 オリジナルブランドの立ち上げとして最初に決めるべきことはコンセプトである。スパークリング、低アルコールなどトレンドの取り込みなどの意見が出たが、千葉県の強みである海の幸との相乗効果が期待できる「鮮魚と合わせるお酒」がコンセプトとなった。酒造りの条件としては、千葉県の酒蔵、千葉県の米、純米酒であることを設定した。旨い酒であることは当然であるが、オーダーされないことには味わってもらうことは叶わない。旅行者にとって価値のあるものとして、「千葉県を訪れて千葉の酒と魚を楽しむ」というストーリーを訴求したかったからだ。

② コンセプトに合う日本酒のテイスティング

 日本酒の選定では条件に合う日本酒を約10種類用意し、プロジェクトメンバー全員で銘柄を隠したブラインドテイスティングを行った。
 通常のテイスティングでは日本酒単体で実施するが、今回は鮮魚との相性の良さが重要であったため、実際に鮮魚との食べ合わせを実施した。また、酒の流通では帳合性による独自の商習慣があるため、流通の容易性についても精査するポイントとなった。

③ ネーミング公募とデザインの選定

 日本酒のネーミングについては当組合に募集を行った。公募の実施には2つの理由がある。1つ目は色々なアイデアを集めたかった点、2つ目は、組合員に対する事前告知と巻き込みである。本プロジェクトによる販売者は当組合員であるため、プロジェクトに参加してもらうことで一緒に作り上げる感覚を持ってもらうことを期待していた。
 ラベルデザインについては、魚が好きな人に飲んでもらいたい、という意味を持った「魚好」というネーミングを採用した。カラーリングにゴールドを採用し、組合員が高価格帯で販売することが可能になるようにと高級感を演出した。

④ 完成製品のお披露目・クラウドファンディングやプレスリリースによる広報活動の実施

 オリジナルブランドの試作品が完成したのは2019年5月だった。商品の販売促進としては大きく分けて、組合員向け、一般消費者向けの2つに分けて取り組みを行った。組合員向けの取り組みとして、会報誌での告知、会合でプレゼン、2箱目無料進呈キャンペーン、日本酒提案セミナーの実施、販促物の充実などである。
 日本酒提案セミナーでは実際に飲食店や宿泊施設で行っている提供方法のレクチャーや、実際に魚好の販売を行っているホテルの担当者へのパネルディスカッションを実施した。
 実際に販売を行ってみた顧客の反応や、経営の観点でのメリットを確認することができ、参加者の多くから新規の受注を獲得することが可能となった。
 また、宿泊施設ですぐに提供できるようにメニューブックなどを豊富に用意した。これにより、新メニュー採用における手間を軽減することが可能となった。
 一般消費者向けの取り組みとしては、イベントへの参加、千葉テレビへの出演、日経新聞や千葉日報などへのプレスリリース、クラウドファンディングなどを実施した。取り上げられた要因としては、商品のストーリー作りが明確であったことが要因であった。

事業の成果

 台風やコロナウイルスの影響は受けたものの、取扱施設数は約40前後となっており、主に県外からの旅行者を中心に非常に高い評価を頂戴している。日常的に飲酒習慣がない宿泊客がオーダーするなど、潜在的な需要の掘り起こしを行うことができた。また、市場に一般流通している商品ではないため、価格設定の自由度が高い。宿泊施設側としても高利益商材として前向きに採用することができた。

今後の事業展開・展望

 今回の取り組みを通して、体験型の消費に対する潜在的な需要が高いことが明らかになった。東京オリンピックに向けた取り組みの一環としてスタートしたプロジェクトであったが、取り扱いしている組合員からは新商品に対する要望を頂戴している。千葉県の強みを生かし、ストーリー性のあるブランドを立ち上げるがことが重要だ。生産者、販売者、旅行者の3者にとってメリットのある、第2弾の取り組みも十分に期待できると考えている。

(中小企業診断士 伊藤 隆光)


『中小企業ちば』令和3年2月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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