テーマ : 組合を活性化する経営革新マインドへの転換
補助事業名 | 令和元年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 千葉県貿易協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 越部 圓 | |
住 所 | 千葉市美浜区中瀬2-6-1 WBGマリブイースト23F | |
設 立 | 昭和35年 | |
業 種 | 異業種 | |
組合員 | 62社(令和2年2月1日現在) | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427) | |
専門家 | 有限会社スペースプランニングMAYBE 代表取締役 岩瀬 敦智(中小企業診断士) |
背景と目的
「オリンピックイヤーが正念場」。千葉県貿易協同組合ほど、その言葉がピッタリ当てはまる組合は少ないのではないか。
本組合は、県内の事業者の貿易を振興するために構成された組織である。そして、基幹事業の一つである「共同販売事業」として、成田空港の第1および第2ターミナルに小売店舗を構えている。本稿では、その一つである「千葉トレードセンター(店舗名)」の売上アップに向けた取り組みを紹介したい。
当店は、成田空港第1ターミナルの4階「出発ロビー」に隣接して拡がるショッピングモールの中に位置している。そして、その中でも最も通行客数が多いメインストリート同士がクロスする一角に位置している。紛れもなく一等立地だ。しかし、店舗を取り巻く環境は厳しい。近年、周囲の店舗が相次いでスクラップ&ビルドされ、気づけば大手チェーンが増えてきた。ユニクロ、MUJI to GO無印良品、ABC―MART、Gapなど。いずれも強力な本部機能を持ち、国内外に名が知れたチェーン店である。
空港利用者数は増えている。しかし、ライバルはそれ以上に強力になっている。手をこまねいていれば、売上が下がり続けることは火を見るよりも明らかである。
昨年度、第2ターミナルの「ぼうきょう(現チーバくんハウス)(店舗名)」では、組合員、常務理事、店舗運営スタッフ、中央会が一体となってリニューアルを敢行し、売上を昨年対比1.2倍に押し上げた。冒頭の「オリンピックイヤーが正念場」との常務理事の一言から、第1ターミナルの千葉トレードセンターでも命運をかけたリニューアルプロジェクトが始まった。2年連続のリニューアル投資の意思決定。常務理事の本気を感じた瞬間だった。
事業の活動内容
① 出品者経営陣の覚悟「普通の店舗になる」
「売上至上主義では、縮小や出品とりやめなど犠牲になる組合員がでてくる。組合の存在意義からすると本末転倒ではないか」。リニューアルの方針を巡って実施した主要出品者(組合員の中で当店に出品している事業者)会議で出た意見である。まさに正論だ。一方で、日本屈指の好調モールである成田空港に店舗を構えている以上、競合店に大きく後れをとれば、ディベロッパーの意向により店舗自体の撤退を余儀なくされない。そこで筆者は主要出品者に対して「組合として犠牲は最小限にすることを優先するか」「犠牲が出るかもしれないが売上を高めることを優先するか」という質問をぶつけた。主要な出品者が出した答えは「店舗が存続しなければ、最終的な犠牲はより大きくなってしまう。自分の店舗が不利になってもいい。売れる商品を徹底的に押し出していこう」というものだった。ある出品者は「組合の店舗を残すためには、仮に自社の商品が撤退になっても構わない」とまで言った。まさに、ワンフォーオールの発想であり、頭が下がる思いだった。リニューアルの最大の成功要因は、間違いなく出品者たちの覚悟である。
② 常務理事の信念「店長2名をメンバーに加える」
「現場の意見が大事」「答えは現場にある」。多くの小売業で叫ばれる現場重視の姿勢を表現した言葉だ。しかし、実際に現場スタッフの声が経営の意思決定に届くケースは少ない。現場第一主義は掛け声だけに終わっているのである。しかし、大手チェーンと違って経営資源で不利な本組合は、現場スタッフも含めた総合力で勝負するしかない。今回、常務理事は現場の店長たち(第1ターミナル、第2ターミナルの2名)を、リニューアル推進のプロジェクトメンバーに加えることにこだわった。プロジェクト会議は複数回で長期間にわたる。最低限の人数での店舗運営が常識である今、この意思決定を貫き通すことは想像以上に難しい。現場スタッフにも物理的、心理的な負担を強いることになる。それでも、常務理事は2名の店長をメンバーに入れることにこだわりぬいた。のちに、このこだわりが奏功することになる。
③ 店長たちの現場感覚「地図は外せない」
リニューアルプロジェクトが始まって間もなく、「チーバくん」をモチーフにして、赤を基調とした店内にすることは決まった。「店舗入り口の両サイドには、取り扱いアイテムを大きく提示してはどうか」、そのようなリニューアル案で決まろうとした最中、店長たちが意見を述べた。「海外の人もチーバくんが千葉県の形をしていると説明すると、反応が良い」「最近のお客様の関心事は海外の人でもインスタ映え。大きなチーバくんがあったほうが良い」。それまで慣れないプロジェクト会議という場で発言が少なかった店長たちが意を決して放ったこの一言が、リニューアルの方針を決定付けた。実際の接客や顧客観察に根差した意見は、間違いなく説得力を持っていた。結果、これらの案が採用され、大きめのチーバくんや、地図をあしらったイラストが各所に施された。
④ 運営責任者たちの行動力「是が非でも品揃えを良くする」
アジア系の観光客が多かった第2ターミナルは赤を基調とした店舗デザインが響いたが、第1ターミナルは欧米系の割合が高く、赤がそれほど響かないのではないか。リニューアルを万全にすべく、動いたのは2店舗を統括するマネジャーと事務担当者だった。筆者からの各出品者と品揃えをじっくり協議してはどうかという提案に対し、マネージャーは「データを示しながら、売れていない商品は控えめにし、売れている商品を強化してもらいましょう」と応え、各出品者と個別に打ち合わせの機会をもった。アイテム別データは、既存のデータを加工する必要があったが、事務担当者が忙しい中、時間を縫って主要出品者すべての分を整えた。今までにない彼らの動きに、各出品者の営業担当者が応えた。「この商品は外します。その代わりこの商品を入れましょう」という積極的な提案があがり、具体的なアクションへとつなげてくれた。これらの動きの中、2019年7月、千葉トレードセンターのリニューアルが敢行された。
事業の成果と今後の展望
2019年12月時点で、千葉トレードセンターの売上高は、昨年対比約1.2 倍。じわじわとリニューアルの効果が表れてきた。何よりも、今回のリニューアルを通して、出品者の覚悟、常務理事の信念、店長たちの現場感覚、運営責任者たちの行動力が一体となった点が大きい。第1ターミナル、第2ターミナルともに、売上高には納得していない。それでも、ワンフォーオールの精神が持続すれば更なる売上アップは遠くないだろう。そして、いよいよオリンピックがやってくる。