テーマ : 経営者が知っておくべき働き方改革関連法について
補助事業名 | 平成30年度女性経営者等交流会 | |
対象組合等 | 千葉県中小企業団体レディース中央会 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 田村 哲子 | |
住 所 | 千葉市中央区富士見2-22-2 | |
設 立 | 平成14年 | |
業 種 | 異業種 | |
組合員 | 14人 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 商業連携支援部(℡ 043-306-3284) | |
専門家 | 望月社会保険労務士法人 代表 望月 由佳(特定社会保険労務士) |
背景と目的
「『一億総活躍社会』の実現に向けて、働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保等のための措置を講じる。」ことを旗印に、2016年9月から2017年3月まで全10回にわたる「働き方改革実現会議」での議論を経て「働き方改革実行計画」が纏められ、これを踏まえて、2018年7月6日に「働き方改革を推進するための関連法律の整備に関する法律」が公布されました。主な内容として、「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が掲げられ、労働基準法をはじめとする関連法令の改正が行われることとなりました。特に、労働時間管理の在り方や年次有給休暇の取扱いについては、経営者として、正確に理解し対応を検討しておく必要があることから、「第2回女性経営者等交流会」の場をお借りして、改正内容と事業所としての対応策等について、以下の流れでお話をさせていただきました。
主な改正内容と施行時期
1.労働時間法制の見直しについて
① 残業時間の上限の規制
② 年5日の年次有給休暇取得の義務付け
③ 高度プロフェッショナル制度の創設
④ フレックスタイム制の拡充
⑤ 勤務間インターバル制度の導入(努力義務)
⑥ 労働時間の客観的な把握の義務付け
⑦ 産業医・産業保健機能の強化
⑧ 月60時間超の残業に対する割増賃金率の引上げ
【施行日】①大企業2019年4月1日、中小企業2020年4月1日、②~⑦大企業、中小企業ともに2019年4月1日、⑧中小企業2023年4月1日(大企業は施行済)
2. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
① 不合理な待遇差をなくすための規定の整備
② 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
③ 行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備
【施行日】①~③大企業2020年4月1日、短時間労働者・有期雇用労働者の規定について、中小企業2021年4月1日
主要な法改正事項のポイント
1.年5日間の年次有給休暇取得の義務付け
年次有給休暇の取得は、原則として労働者が自ら申出をすることによって取得することとされていますが、今回の改正によって、「年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に対して、その日数のうち5日については、使用者が時季を指定して取得させる」ことが業種や規模に関わらず全ての企業に義務付けられ、2019年4月1日から施行されました。これは、管理監督者や有期雇用労働者、比例付与の対象となっているパートタイム労働者等にも適用されます。事業所としては、対象者毎に年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日を取得させる必要がありますので、管理簿等を作成し、正確に管理していくとともに、その管理簿については3年間保存する必要があります。また、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法等については、就業規則の記載事項ですので、就業規則の作成義務がある事業所については、この内容について規定を設け、所轄労働基準監督署長に届出をする必要があります。勿論、本人からの申出や事業所の計画的付与による取得についてもこの「5日」にカウントされますので、1年間の年次有給休暇の取得について予め見通しを立てて取得を推進していくことが大切です。
2.労働時間の客観的な把握の義務付け
これまで「労働時間の客観的な把握」は、主として、割増賃金の適正な支払いを目的とするものであったため、裁量労働制の適用者や管理監督者については対象外でした。しかし、今回の改正では、「健康管理の観点から、これまで対象外となっていた者も含めて、すべての人の労働時間の状況を客観的な方法その他適切な方法で把握すること」が事業主に義務付けられました。そして、労働時間の状況を客観的に把握することで、長時間労働を行った労働者に対して医師による面接指導を確実に行っていくことを狙いとしています。長時間労働による過労問題への対応策として強化されたところです。
3.残業時間の上限規制
中小企業については、2020年4月1日から施行となりますが、時間外労働の上限は、法律上、原則として「月45時間、年360時間」となり、臨時的な特別な事情がなければこれを超えることはできません。また、「時間外労働と休日労働の合計」については、単月で「100時間未満」、2~6ヶ月平均で全て1ヶ月あたり「80時間以内」としなければならない等、より正確な管理が必要になってきます。そして、時間外労働・休日労働を行わせるためには、時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)の締結・所轄労働基準監督署長への届出が必要です。また、臨時的な特別な事情があり労使で合意する場合(特別条項付きの36協定)であっても、「年720時間以内」「月45時間を超えるのは、年6ヶ月が限度」等、制限があります。違反した場合の罰則規定も設けられましたので、十分に注意していくことが必要です。
働き方改革への対応
法違反が判明しますと、是正勧告が行われ、それに対して、是正や改善が認められない場合や悪質性が高い場合などは書類送検等が行われます。是正勧告の事例としては、次のようなものがあります。
【労働時間関係】
・36 協定の届出をせずに法定労働時間を超えて労働させたもの
・36協定の届出をしているが、協定した労働時間の範囲を超えて労働させたもの
・36協定の有効期間が切れているもの等々
【割増賃金関係】
・割増賃金を支払わずに時間外労働をさせたもの
・管理監督者に深夜労働に対する割増賃金を支払っていないもの
・割増賃金の算定基礎に各種手当を含めず、基本給のみとしているもの
・年俸制を理由に割増賃金を支払っていないもの
・固定残業代を採用し、それを超過する時間分を支払っていないもの等々
真の「働き方改革」とは?
今回の法改正によって、事業所として取り組むべき課題がいくつか見えてきたと存じます。勿論、コンプライアンスの観点から対応していくことにはなるのですが、少し視点を変えて、これを機会に、御社の真の「働き方」について改めて考えてみては如何でしょうか。社員の皆さまにどのように成長していってほしいか、そのためにどのような働き方が望まれるか、また、社員の皆さまは、何のために働いているのか、働き方についてどう考えているか等々、面談やミーティングを通して、様々な意見を聴き、会社の成長とともに社員の皆さまの活き活きとした働き方を再構築してみることも将来的にとても意義のあることかもしれません。「働く」ことは「傍を楽にする」こと等とも言われます。真の「はた楽」方改革を推進されますことを祈念いたしております。