テーマ : 組合員からの支援ニーズ及び地域社会からの社会的要請に対応する組合ビジョン策定のための調査・研究事業

補助事業名 平成29年度中小企業組合等活路開拓調査事業
対象組合等 幕張ベイタウン商店街振興組合
  ▼組合データ
  理事長 山根 治仁
  住 所 千葉県千葉市美浜区打瀬2-16 パティオス17番街1階
  設 立 平成25年4月
  業 種 小売業、サービス業中心の異業種
  会 員 88人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 商業連携部(℡ 043-306-3284)
専門家 コンサレンツァ・ガーディナツィオ 代表 伊藤 壮平(中小企業診断士)

背景と目的

 JR京葉線海浜幕張駅に隣接する幕張新都心地区の住宅エリアである幕張ベイタウンは、「『人と車』『住宅と商業』の共生」をコンセプトに、電柱のない石畳風の幅広の道路、沿道中庭式の中層住宅を中心としたマンション群、その1階には商店が立ち並ぶ、ヨーロッパ風の街並み景観で統一された住宅街として平成6年に誕生しました。幕張ベイタウン商店街振興組合はこの沿道のテナントとして出店している商店が組合員となっており、平成7年に発足した任意団体の商店会を母体に平成25年に法人化しました。
 組合活動として、隔月開催の「ベイタウン朝市」、毎年8月開催の「ベイタウン夏祭り」、冬季に街をイルミネーションで彩る「ウィンターフェスティバル」の実施や、近年では外国人向けの多言語マップ等、様々な地域活性化に向けた取り組みを実施しています。
 当地区の高齢化率は7.2%と、千葉市の平均である23.9%と比較して圧倒的に低く、人口も増加傾向にあるエリアですが、街開きからもうすぐ四半世紀となり、当初から居住している住民の高齢化及び新たな住民層との入れ替わりが進む一方、商店街でもかつては個性的な専門店だった店舗が撤退し、その後の入居テナントが塾・病院・美容院等が増えるなど、街の風景も変化しており、組合でも変化に対応できる持続的な将来の発展に向けた活動指針、ビジョン策定の必要性を感じていました。
 今回の事業では将来ビジョンの策定を見据え、現在の地域住民が組合に何を求めているのかのニーズ把握と、同時に組合員の現状及び組合の方向性についてのアンケート調査を実施しました。

事業の活動内容

住民向けアンケート
 日頃商店街を利用すると考えられる幕張ベイタウン内のマンション棟に居住する約9000世帯に対しアンケート票をポスティングにより全戸配布、商店街内の複数店舗で回収し、結果395通の回答が得られました。
 設問内容は、日頃の商店街の利用状況、幕張ベイタウン地域及び商店街の良いところ・不満、商店街の発展のために必要だと思うこと、現在の組合活動の認知・参加状況等を伺うとともに、東京オリンピックに向けた外国人観光客への対応策、商店街への意見・要望を自由回答で伺いました。
〇事業者向けアンケート
 幕張ベイタウン内の事業者に対しアンケート用紙を配布、後日訪問回収を行い、64件の回答が得られました。
 設問内容は現在の経営状況や経営上の問題点、今後の経営方針、商店街の商業環境等事業面に関する内容と、幕張ベイタウン地域及び商店街の良いところ・不満、商店街の発展のために必要だと思うこと、現在の組合活動の認知・参加状況等、住民ニーズとの合致が得られているかの対比を目的とした内容を伺うとともに、住民同様、東京オリンピックに向けた外国人観光客への対応策、組合への意見・要望を自由回答で伺いました。

事業の成果

 住民向けアンケート・事業者向けアンケートともに回答者の年代は40代・50代が約6割と当地域の人口構成を反映したものとなりました。事業者向けアンケートでは今後の経営方針の問いに対し「経営の継続は困難なのでいずれはやめるつもり」という回答が皆無と、幕張ベイタウン商店街の特徴を表しています。
 住民向けアンケートでは商店街を利用する理由として「街や店の雰囲気が好きだから」「商品の品質が良い」「できる限り地元にお金を落としたい」という声が多く挙がっていたとともに、自由回答への記述も6割を超えるなど、地域に対する愛着の深さと今後のまちづくりに関する興味・関心の高さが浮き彫りとなりました。同時に地域住民の組合活動に対する評価は「ベイタウン朝市」「ベイタウン夏祭り」「イルミネーション」の認知度・継続意向が8割を超えるなど、非常に高いものとなっています。
 その一方で、組合に一番求めていることは何よりも「商業施設の充実」「買いたいもの・受けたいサービスがあること」で、現在の特定の業種偏重に対して違和感を感じているとともに、日常生活に必要な食品等の最寄品店や飲食店の充実を求める声が非常に強くなっています。また同時に「気軽に立ち寄りくつろげる空間」が少なく、「楽しく買い物できる環境」を求める層が多いことがわかりました。
 また個店に対しての要望も大きく、「商品の品揃えが豊富でない、欲しい商品がない」「価格が高い」「入りにくい雰囲気の店が多い」「営業時間が短い」等の不満を抱いており、利便性の向上や顔の見える情報発信が求められています。
 また幕張ベイタウンでは、誕生時のコンセプト「『人と車』『住宅と商業』の共生」に基づき、ベイタウン内の道路に駐車して買い物ができるよう設計されており、利便性を評価する声がある一方、住民層の変化によるモラル低下や街区外からの来訪者による買い物以外の駐車も目立つようになり、景観の毀損や事故の危険等を懸念する声も一定数存在しました。
 併せて東京オリンピックに向けての方策でも、住民側からはハード面、ソフト面の整備を求める意見以外に、ベイタウン内の安心・安全の確保やマナー・モラルの向上の啓蒙を求める声もありました。

今後の事業展開・展望

 これらのニーズを踏まえ、今後の組合の基本的な方向性は以下のことが考えられます。
◎必要なもの、生活を潤すものが手に入るまち
 飲食店やカフェの誘致を求める声や、住民同士のコミュニティスペースが少ないとの声など、気軽に立ち寄れる場所がなく、商店街に行く理由がない、どんな雰囲気かわからない店が多いという不満に繋がっていると考えられます。また将来を見据えると高齢者層の増加は避けられず、「街の中で必要なものが手に入ること」は今後益々重要な課題になってゆきます。
 組合と住民が長期的な視点でコンセンサスを形成し、組合主導の不足業種の誘致や、組合が出店希望者と物件オーナー、マンション管理組合の間をとり持つ「マッチング機能」も検討すべきです。
◎景観・モラル・マナーの良い上質・安全なまち
 「幕張ベイタウンの好きなところ」として景観・自然環境施設に加え、住民同士の高いモラル・マナーも多く挙げられていますが、住民層の変化によるモラルの低下を訴える声も多くなっていました。地域住民を交えて、幕張ベイタウン誕生時のコンセプトを振り返りながら、どうすればこのコンセプトを大切にしながら維持できるかの議論と、商業者中心による景観の整備、モラル・マナーの向上に繋がる運動の推進も望まれます。
◎文化的に楽しく街歩きができるまち
 子供を連れてなかなか遠くに行くことができない子育て世代や、車で外出できない高齢者が気軽に立ち寄れる店・場所が少ないとの声が多く挙がっていました。また専門性の高い店舗等の減少で「街の顔」が希薄化したとの意見も多く、このような店舗が出店及び継続できる環境づくりが必要です。また途中で一休みや交流ができる休憩スペースの設置も一考です。
 この先、JR京葉線の高架を挟んだ反対側に新たな住宅街区の若葉地区の誕生が予定され、さらなる発展が予測される幕張ベイタウンであるからこそ、10年〜15年先の変化を見据えた組合ビジョンの策定が重要になってきます。

(中小企業診断士 伊藤 壮平)


『中小企業ちば』平成30年8月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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