テーマ : 従業員の雇用確保と法的整備の必要性について

補助事業名 平成29年度連携組織活性化研究会
対象組合等 銚子水産加工連協同組合
  ▼組合データ
  理事長 池永 清
  住 所 千葉県銚子市前宿町852
  設 立 平成11年5月
  業 種 水産食料品製造業
  会 員 22人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 特定社会保険労務士 小倉事務所 代表 小倉 功志(社会保険労務士)

背景と目的

 雇用情勢が大きく変わった昨今、安定的に新たに従業員の確保することは勿論のこと、持てる人材の育成と有効活用は企業の喫緊の課題である。企業が従業員を選ぶ時代は終わり、労働者が企業を評価し選ぶ時代になっている。グレイな企業やブラックな企業は敬遠され苦戦は免れない。地方にあっても、地方の経済を支えるという心意気と、若い労働力を引き付けるキラリと光る特性が求められる。そのためにも、企業が関係法令を知り、法令遵守とコンプライアンスの徹底を図ることは強いエネルギー源となる。こうしたことを踏まえ、二回にわたり本研究会を開催した。

事業の活動内容

第一回「経営者が知っておくべき労働関係法令とその背景等」
次の事項について説明した。
①健康経営について
 魅力ある職場環境づくりの最近の動向は「健康経営」で、既に多くの企業が、「健康経営」を宣言しています。しかし、みなさんの会社では、どうですか。
 働く側(親も含めて)は、自分の働く会社が健康経営を推進しているかに大きな関心を持っています。良い人材を集め、定着させるのは、経営者の手腕です。
②めまぐるしく変わる労働法制への対応について
 企業経営者は、いつ、どこで、どんな方法で、労働関係法令やその他の法令の情報を得ていますか。
③ブラック企業の公表制度について
 労働基準監督署から是正勧告書を交付されると、厚生労働省のHPでブラック企業として公表されてしまうことを知っていますか。
 また、労働関係法令違反を繰り返す企業からの求人票の受付は拒否されることになりましたが、知っていますか。(特に、実習実施者にとっては、致命傷です。)
④カトク(過重労働撲滅特別対策班)と、2018年4月1日からの労働基準監督署の体制について
 政府が長時間労働の抑制に本腰を入れ始めていることを知っていますか。大阪労働局と東京労働局で始まった「カトク(過重労働撲滅特別対策班)」が、2018年4月1日から各地の労働基監督署でも組織されることを知っていますか。
国会で審議中の「働き方改革関係
法案」では、より厳しい事態にな
ることを知っていますか。
⑤過労死等ゼロ緊急対策について
 2016年12月26日に、「過労死等ゼロ緊急対策」が公表されたことを知っていますか。長時間労働はメンタルヘルス不調者などを増やし、それが会社が被る不利益にも繋がり、さらには、それが社会的な損失を生むに至ることを考えたことがありますか。
⑥労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインについて
 2017年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(省令)」が公表されたことを知っていますか。(法律・政令・省令)労働時間は、「労働者が使用者の指揮命令下にある時間である」、「労働時間の把握と適正管理は使用者の責任である」と明記されていることを知っていますか。
第二回「企業が整えるべき職場環境等」
 次の事項について説明した。
①労働基準監督官が用意するように言ってくる書類について(注・急には準備できないから、普段から整えておくこと)
*企業の組織図
*企業全体の従業員の数
* 従業員(アルバイトを含む)について雇用形態が分かる書類(男女別)
*締結している労使協定と周知
 ・三六協定
 ・ 一年単位の変形労働時間制に関する労使協定 など
 ・右記以外にも、いろいろある
* 労働者の過半数代表を選任の方法が分かる書類
*就業規則(雇用形態別)
*勤務予定表(直近六か月)
* タイムカード又は出勤簿(直近六か月)
*賃金台帳(直近六か月)
*時間外労働等の申請又は命令簿
* 従業員ごとの時間外労働等の月ごとの集計表及び累計票
* 長時間労働をした従業員に対する措置が明らかになる書類(産業保健スタッフの活動状況や医師の面接指導等の記録)
* 長時間労働の抑制に取り組んでいることが分かる書類(事業主の意思表示)
* 安全衛生管理体制の状況が分かる書類
  常時使用する従業員の数が五十人以上の場合には、次の書類も
 ・安全衛生管理体制の組織図
 ・安全衛生委員会規程
 ・安全衛生委員会議事録
 ・安全管理者に関する書類
 ・衛生管理者に関する書類
 ・産業医に関する書類
 ・作業主任者に関する書類
* 年次有給休暇管理簿(年次有給休暇の取得状況が分かる書類)
*労働者名簿
* 健康診断個人票(雇入れ時、定期、特殊検診など)
* 免許・技能講習・特別教育の一覧表
* 特定自主検査(フォークリフトなど)の点検記録表や運転記録表
* 定期自主検査(局所排気装置など)の点検記録
* 作業環境測定結果記録(直近二回分)
* 使用している化学物質があれば、その物質名や使用量がわかる書類
*メンタルヘルス対策に係る書類
*業務委託をしている場合
 ・業者ごとの委託の内容
 ・ 業者ごとの従業員の構成(男女別)
 ・勤務の状況
 ・福利厚生施設の利用の可否
 ・十八歳未満の者の数 など
② 一年単位の変形労働時間制の要件(趣旨を違えると労基法違反)について
  一年単位の変形労働時間制(労基法第三十二条の四)は、労働時間の基本形(労基法第三十二条)の変形である。それ故に、クリアしなければならない多くの要件がある(詳細は、配布した資料のとおり)。
  何故、この地方に、一年単位の変形働時間制を採用している企業が多いのかについては、所轄の労働基準監督署も少なからず疑問を持っている。長時間労働の抑制政策や働き方改革とも相俟って、当局の指導も予見される。少なくとも二十余りの要件のすべてをクリアしなければ労働関係法令違反に問われることになるだけではなく、民事上でも争われるリスクを抱えている。この機会に、一年単位の変形労働時間制と自分の会社の実態を見直す必要があると考える。

終わりに

 当局の発表によれば、労働関係法令違反率は依然として70%を超えている。地方労働行政運営方針の柱は、「働く人々の安全と健康の確保」である。関係者には、当局が「強行規定を駆使して法令違反を繰り返す者を排除している現実」を再認識して欲しい。今回、千葉県中小企業団体中央会が銚子水産加工連協同組合の組合員のために設けた「連携組織活性化研究会」が、今後の銚子水産加工連協同組合と組合員の皆様の組織の活性化と地域の発展に少しでも資することができれば幸いである

(小倉 功志)


『中小企業ちば』平成30年9月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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