テーマ : 電気設備工事業者の事業承継と高齢者向けサービスの展開

補助事業名 平成28年度連携組織活性化研究会
対象組合等 我孫子電設協同組合
  ▼組合データ
  理事長 戸塚 誠一
  住 所 千葉県我孫子市岡発戸919-4
  設 立 昭和58年3月
  業 種 電気工事業
  会 員 19人
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427)
専門家 (有)綜合電設 代表取締役 宮下 賢一(中小企業診断士)

経営課題と問題意識

 我孫子電設協同組合は、我孫子市の建設工事に関わる電気設備工事の共同受注および共同購買を目的として、昭和54年に設立された。近年は、我孫子市からの街路灯修繕工事を中心として、公園緑地化事業、手賀沼花火大会の仮設工事等を行っている。各組合員は、現状について以下を問題点として認識し、対応を模索している。

①既存事業の消滅

 街路灯修繕工事は、電球のLED化の完了に伴い交換等の修繕工事が今後ほとんど不要になると見込まれることから、今後需要の大幅な減少は避けられない。しかしながら、現在我孫子市からは学校等の公共施設に関する工事の受注はなく、また今後も県や市からの受注の増加を期待できる状況にはない。そのため、本組合としては、これまでの街路灯修繕に代わる新たな事業の発掘が課題であると認識している。その中で、今後は民間工事が有望であると考え、特に高齢者向けの地域の新たな工事サービス等の機会を探している。

②事業承継

 本組合の組合員は19社であり、ピーク時の22社から減少している。これは電設工事受注の減少による経営悪化に加え、後継者不在も大きな原因であり、その確保は各組合員における大きな経営課題として認識されている。幸いなことに、各社とも50代を中心とする2代目が多いことから、現時点では喫緊の課題として顕在化してないものの、次代を担う3代目の目途は立っていない。また、事業承継後の工事業のあり方についても検討が必要であると考えている。
 これら問題意識の下、電気工事業における事業承継と高齢者サービスについての事例研究のため、3年前に電気設備工事業の事業承継が行われた有限会社綜合電設(当社)を事例として、承継者である筆者に承継後の取り組みを含めた紹介を依頼した。

電気設備工事業者の事業承継

①事業承継のリアル

 筆者は、当社創業者の長男として生まれた。自宅に転がる工具で遊ぶ家庭環境に育ったが、家業を承継する意思は皆無であり、高校は普通科に進み、大学は工学部ながら都市計画を専攻した。この間、長期休暇中には現場施工に駆り出されることもあったが、卒業後は鉄道会社に就職し、商業施設の運営、開発に従事していた。
 筆者は在職中、商業施設運営と店舗経営支援ノウハウ向上のため中小企業診断士試験を勉強していた。当時の試験科目には団体中央会等の公的支援機関に関する論述試験があり、その中で中小企業大学校「経営後継者コース」の存在を知った。その後、父から事業承継を要請されたが、これに対し筆者は勤務先を退職の上で同コース(10ヶ月)に入学し、その間に進路を判断することとした。
 後継者コースは同期16名で、派遣元はいずれも中小企業ながら相応の歴史、規模、経営理念を持つ企業ばかりであった。最も歴史を有する同期は17代目で、先代は同コースの1期生であった。また、当然ながら同級生は全員事業承継を当然のこととして入学しており、その中で独り事業承継の是非自体を模索することに違和感をもった。結論として、父が職人の親方という理由だけで承継する必然を見いだせず、同コースの修了とともに再就職、家業と決別した。

図1「後継者コース参加者」

②介護離職による事業承継

 5年前、父ががんに罹患、療養を余儀なくされ、母が「介護と切盛り」の両立に悲鳴を上げ、助けを求められた。これに対し、当初は社外取締役として業務運営、渉外などを代行していたが、意思決定の責任を負う機会が増えるとともに勤務先の業務にも支障を生じるに至り、実質的な介護離職として家業を承継することとなった。

 高齢者向けサービス

①工事対象先の変遷

 当社が主業としている防犯防災機器設置の施工対象先は、時代時代とともに変化してきた。かつては事務所や店舗、金融機関などの法人需要がほとんどであったが、近年は防犯意識の高まりとともに、家庭向けが普及してきた。特に現在は「見守りサービス」等の高齢者向け機器が開発され、自治体による緊急通報サービスにも多く活用されている。またこれに対応して、工事担当者も高齢者対応の接客スキルを身に着けていた。

②「介護電気工事」の誕生

 工事担当者が施工のため単身高齢者を訪問した際は、その話し相手を務めることも多い。中にはコンセントやスイッチなどの使い勝手について相談を受け、「ついで工事」を頼まれることもある。しかしながら、当社は下請業者であり、その場で依頼に対応することは難しい。帰社後の工事担当者と話す中で、介護と電気工事の融合が図れないか考え、コンセプトとして「介護電気工事」を発案した。その具体化においては、介護保険を利用した介護リフォームや訪問介護などと競合せず、また免許が必要な電気工事への特化による専門性の確保に留意した。
 事業化に当たっては、日本商工会議所「小規模事業者持続化補助金」を活用した。これは小規模事業者を対象として事業費の2/3、最大50万円が支給されるもので、本件では、①高齢者を対象としたグループインタビュー、②webサイト作成、を実施した。

 

図2「介護電気工事の流れ」

 ①においては、高齢者の特有の心理に基づく重要な指摘をいただいた。「警戒心が強くなるため、人柄が認められるまで依頼することはない」「判断能力が衰えるため、電気以外を含む住生活すべてを面倒見てほしい」など、高齢者限定サービスを電気工事専業で行うことは難しいと思われた。
 一方、介護離職の当事者としては、同様に地元に親を残し、老化による生活リスクを心配する現役世代が都心部に多くいることが予想された。そこで、介護電気工事の標的顧客を彼らに変更し、業務の流れも図2のように変更した。

③「介護電気工事」の課題

 最大の課題は、認知度の向上であり、標的顧客への有効なアプローチ方法を探索中である。ホームページの定期的な更新に加え、新たに区役所に広告を出稿した。当社はこれまで下請業者として広告宣伝の必要性を感じていなかったが、今後新たな事業活動を行う上で認知度向上が必須であることを痛感した。この課題を我孫子電設協同組合の参加各社と共有することで、発表を終了した。

(宮下 賢一)


『中小企業ちば』平成29年11月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)

 

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