テーマ : LPガス業界の現状と動向~電力自由化による対応策について~
補助事業名 | 平成28年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 海匝ガス事業協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 佐藤 衛 | |
住 所 | 千葉県旭市二260-4 | |
設 立 | 昭和56年2月 | |
業 種 | 燃料小売業 | |
会 員 | 30人 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 商業連携支援部(TEL 043-306-3284) | |
専門家 | 神吉マネジメントコンサルティング 神吉 耕二 |
背景と目的
海匝ガス事業協同組合にて、平成28年7月より4回にわたって研究会を開催した。テーマは、「LPガス業界の現状と動向~ガス自由化による今後の対応策」である。
海匝ガス事業協同組合は、千葉県旭市、匝瑳市、横芝光町で事業を展開する約30の組合員で構成されている。組合員は、プロパンガス及び同機器の販売会社である。
平成29年4月より都市ガスの自由化が施行されるが、それにあたり今後の対応策を講じる目的で、研究会の開催に至った。実は、プロパンガス自体はすでに自由化されているのだが、エネルギーの自由化が進んでおり、将来生き残っていくためには、適切な対応策を取らなければならないという危機感が背景にあった。
LPガス業界の現状と動向
①日本のエネルギー事情
経済産業省資源エネルギー庁によると、日本のエネルギー自給率は6.0%(平成26年度)とOECD加盟諸国34か国中33位の低さであり、海外への依存度が高いのが特徴である。そして東日本大震災以降、原発の停止により海外からの化石燃料への依存度がますます高まり、エネルギー自給率の低下、電力コストの上昇、CO2排出量の増加の要因になっている。
エネルギーの品質自体は高く、供給の信頼性、省エネ対策、環境性、安全性は世界最高水準である。日本のエネルギー価格は、家庭用ガスを除き、規制の緩和や制度改革で割安にあり、エネルギー産業は競争の時代へ移行している。
②LPガスの現状と課題
平成26年のエネルギー基本計画(経済産業省資源エネルギー庁)によると、LPガスは、化石燃料の中で温室効果ガスの排出が比較的低く、発電においてはミドル電源として活用が可能である。消費者への供給体制や備蓄制度が整備されており、可搬性・貯蔵の容易性に利点がある。そして緊急時にも貢献できる分散型のクリーンなエネルギー源としての特徴を持つ。
LPガスについての国の政策として、料金の透明化のための小売価格調査と情報提供や、事業者の供給構造の改善を通じて、コストの抑制を掲げている。またLPガスの利用形態の多様化を促進するとともに、LPガス自動車など運輸部門においてさらに役割を果たしていく必要を述べている。
LPガスについては、東日本大震災で、電力供給がなくても使える貴重なエネルギーとして、防災に強い面を示した。しかし、家庭用エネルギーは、電力が優位な傾向が強まっている。オール電化住宅が普及し太陽光発電など再生可能エネルギーに対する支援も増えている。
電力優位のエネルギー状況の中、ガス事業制度も変化している。小売りの自由化、料金制度の改正、ガス供給設備の開放等である。LPガスにおいては、単に都市ガスとの棲み分けだけでなく、電力を筆頭としたエネルギー全体の中での位置づけが問われている。
LPガス業界全体の課題として、エネルギー自由化への対応、低迷する需要のテコ入れ、料金が高い不透明といった悪いイメージの払しょくなどが挙げられる。そしてLPガス事業者の課題としては、ガス料金の引き下げによる価格競争力の強化とそれに耐えられる業務の合理化・効率化が求められる。またサービスの充実によるお客様との関係強化と、新規顧客の開拓など潜在需要の掘り起こしによる収益の維持拡大が課題となっている。
③エネルギー自由化の影響
平成28年に電力小売りが全面自由化され、ガス会社による電力とのセット販売が開始された。平成29年4月にはガス小売りが全面自由化になる。これにより地域独占だった電力・ガス事業の相互参入が可能となり、他業種からの新規参入が増え、価格およびサービスの競争が激化するものと予想されている。
このような状況下では、エネルギーの低価格化が進み、付加価値競争に拍車がかかるであろう。単一のエネルギーだけでは生き残るのは困難になるため、総合エネルギー化やエネルギーミックスが促進されるため、業界を超えたパートナーシップが増加することが見込まれる。すでに携帯電話会社や通信会社などからのセット販売の広告を受け取った方も多いはずである。
このようにエネルギーの自由化は、LPガス業界内部だけ通じるルールを崩壊させ、LPガス業界や事業者が置かれている立場はより厳しい状況となっている。今後は業界の枠組みにとらわれず、将来に向けた事業戦略を各事業者が見直さなければならない時代に突入している。
事業戦略見直しのススメ
① これからの時代に生き残るための事業戦略
エネルギーの自由化により、業界のことだけ考えていては生き残りが困難になることが予想される。基本は顧客ニーズにどう対応するかである。顧客からの安定した支持と収入を得るためには、勝ち残るための事業性戦略を根本から見直す必要がある。大手企業は資本力・技術力を生かして、総合化・低価格化・付加価値化を推し進めてくる。中小のLPガス事業者は、それを踏まえ、どう差別化していくか考える必要がある。
②LPガス事業の今後
自社の事業戦略を勘がる前にLPガス事業の特徴を整理しておく必要がある。LPガスは一般家庭用のプロパンガスの他に法人向けのタンク供給がある。LPガスのメリットは、災害に強い、イニシャルコストが安い、安全性が高い、環境にやさしい、湯の質が良い、機器の使い勝手が良いなどである。逆にデメリットは、ランニングコストが高い、機器の品揃えが少ない、汚れやすく掃除しにくい、信頼性に劣るイメージがある、などである。
以上を鑑みて、LPガスによって顧客の生活がどう豊かになりどう支持されるのか考えてみると、安心安全な生活の提供、災害に強い、という強みが浮かび上がる。また、LPガス事業者は、一般家庭との結びつきが強く、台所に上げてもらえる数少ない業者であるそうした強みや利点を、各事業者は将来の事業戦略に活かすことが重要となる。
③事業戦略見直しのポイント
これからの時代に生き残るための事業戦略を策定するにあたってのポイントを整理する。
まずは自社を知ることから始めることが大切である。具体的には、各事業者が自社のビジョンや強みを明確にすることである。今後は自社努力だけでなく、他社との提携や協力が不可欠である。協力先に提供できる自社の強みや、成長に必要だが自社にないものを把握していなければ、事業を発展させることは難しい。
LPガス業界に限らず、日本の産業構造が縮小している中では、自然と顧客数は減り、受注量も金額も減少する傾向が強まる。そうしたリスクを回避し、経営を安定化させるためには、利益率の高い事業の創出、複数の事業軸を持つことが有効である。
まさしく経営環境が激変する中では、改善レベルではなく、根本的に見直す「革新」レベルの考えが求められる。自社が生き残るための事業戦略を策定するためには、各事業者が、業界に依存せずその枠を超えて、大きく広く柔軟に発想し行動することが重要なのである。