テーマ : 商店街を利用者目線で俯瞰する
補助事業名 | 平成25年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 松戸駅周辺商業協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 林 護 | |
住 所 | 千葉県松戸市松戸2060 | |
設 立 | 平成24年11月 | |
業 種 | 小売業・飲食店中心の異業種 | |
組合員 | 19人(平成26年7月現在) | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 商業連携支援部(℡ 043-306-3284) | |
専門家 | ベン・デザインオフィス 高山 勉 |
背景と目的
松戸駅周辺は市内最大の商業集積地と理解されてはいますが、大型店やチェーン店が発信する大量の情報に圧倒されて個々の商店の存在が目立ちません。かつては東葛飾地域の経済的中心として栄えた商店街なので、店舗構成は今なお買い回り品が中心です。また、官公署や金融機関・サービス業が多く立地し、買い回り客や地域の従業員などを背景に飲食店の比率が高い商店街です。
近年、松戸市が子育て世帯重視の政策を打ち出し、これに応えて大型店もファミリー層に手厚い店内構成へと改装を行いました。近年松戸駅周辺に続々と新築されたマンションには比較的若い世代が転入し、この数年で松戸駅周辺は市内でも年齢構成の若いエリアへと変化していきました。
これらの動きを受けて商店街の各店も客層の変化を肌で感じるようになり、この変化を新たな顧客取り込みの好機ととらえた各店では独自のPR活動に挑みます。しかしその基盤となる商店街を一覧できる媒体が今までに作られた経緯が無く、商店街マップの作成とPRは喫緊の課題でもありました。
今回の事業は単なるマップ作成ではなく、商店街の魅力を伝える方法を模索する数回の研究会をその中心に据えました。松戸駅周辺エリアの現況、問題点、対象客、広報媒体等の考察や、大規模な現地調査で集めた情報を元に、来街客と同じ目線に立って商店街を俯瞰してみることで利便性の高い媒体の作成を目指しました。
事業の活動内容
今回の事業は3回の実習(研究会)と現地調査、フォローアップから構成されました
◆ 第一回「いつ・誰のために伝える?」
今回作成するマップの目的や機能、期待すべき効果を共通認識し、「エリア内『資源』の棚卸し」と称してメンバーが把握する商店街に関する種々の情報全てを洗いざらい書き出しました。メンバーは全員地元在住の事業主ですが、それでも業態やその存在を知らない店舗が明らかになりました。
結局、当地の店舗情報(特に飲食店)はクチコミ情報や通りすがりの看板に由来することが殆どで、普段歩かない通りや交流のない店舗からは情報が伝わらないことを痛感しました。地元の我々でもこの状態ですから、まして来街するお客様には「謎の街」だということです。
松戸市が平成21年に実施した「商業商圏調査報告書」を参照したところ、やはり買い回り品の購入には価格よりも豊富な情報提供が大きな動機であり、この動機付けは行政が行う交通や利便施設などのインフラ整備とは別の次元で、商店街が独自に起こすべきものです。
かくして、「まず・ここに住む人に伝える」という結論に至りました。続いて情報収集の段取りです。なにぶん商店会への加入率が低いので、各商店会を通じて把握できる個店の情報には限りがあり、エリア内店舗の基本情報はアルバイトも動員して実態調査を実施することとしました。
◆第二回「どこの・何を伝える?」
前回の棚卸しで収集した大量の店舗情報をどう整理するか、選択と集中による要素の絞り込みや媒体での表現方法など、先行する各地の事例なども交えてフリートークで討議を行いました。 当初予想のとおり、店舗全体の半分は飲食関係、残りの半分も不動産や美容関係が目立つ状況です。ここで見えて来た姿が「商店街の2つの顔」でした。官公署やサービス業、買い回り品を扱う店舗等に来る目的買いのお客様と、この地域に勤務しランチや盛り場を需要する人々、この対象客層と時間帯が異なる2つの商店街が同じエリアに混在しているさまが明らかになりました。これが判れば後はスムーズでした。松戸駅商店街を2つの商店街と捉えて地図の両面で表現することを考案しました。商店会加盟店舗は細大漏らさず、それ以外は利用客目線で必要十分な情報を掲載するルールを設定。また、商店街への吸引力であるイベント会場としての公共施設や自治会施設はすべて掲載し来街客への利便性を図ることにしました。
こうして取捨選択した全数600軒に及ぶ情報を物販店中心の「昼面」と飲食店中心の「夜面」に分類、掲載項目は業態・名称・住所・電話・営業時間・定休日に絞り紙面確保を図りました。
この作業を通じて「確かな店の・索引を伝える」というマップの方向性が見出せました。
◆第三回「どうやって伝える」
これまでの作業で絞り込まれた情報を具体的に紙面でどう表現するか、模造紙の雛形で試行錯誤するワークショップを行いました。この商店街には古い商店や史跡等も多く地域紹介の際には歴史に目が向きがちですが、今回それは考慮せず現況ありのままの姿をなるべくスタイリッシュに表現しようと考えました。
本来、デザインやヴィジュアル面をサポートする立場の私としては、松戸駅前に降り立った時に見える建物の多くが昭和50年代の建築で意匠に当時の面影があること、その時代が松戸駅前区画整理の完成とともにこのエリアが賑わいを見せた最後の時代だったことに着目してアイキャッチのイラストに1980年をイメージ、あえて既存の印象から外れることにしました。また、「昼」「夜」2つの顔を対立的に表すシンボルには松戸のイメージキャラクターとして今なお市民に人気のあるコアラを用いて2匹の「招きコアラ」を考案、挿画したところ好評を頂きました。
研究会最終回の後半は、媒体の配布活用の方法や地域メディアへの対応等について議論を行いました。折しも松戸商工会議所の公募型助成「商店会プッシュアップ事業」の募集時期と重なりましたので、このプレゼンテーションに応募し各商店会代表の方々にも松戸駅前商店街が市の中心市街地として本気で取り組んでいる様子を理解して頂こうということになりました。
この3回の研究会を通じて得た答えは「現況を本気で伝える」ということでした。
◆フォローアップ
やがて商店街マップ試作版が完成しました。試作版は枚数に限りもあるため先ずは商店会加盟各店にサンプル配布し再度意見を聴取することとしました。ここで得られた建設的な意見や新たな店舗情報を元に、この秋には本編を作成し地域内全戸と事業所従業員を対象に配布の予定です。
事業の成果
今回、身近な商店街エリアを客観的に俯瞰することによって、店舗構成や立地の偏り、顧客目線で見た回遊導線と商店側の思惑の違い、またこれらが時間帯ごとに多様な表情を持ち、商店街の一意ではないイメージを形作りながら利用客と相互に取捨選択される動態が浮かび上がってきました。
この事業を通じて、『商店にとってクチコミは重要な媒体だが裏付けが必要。客層に適うスタイルで的確な情報提供を続ければ必ず望ましいクチコミが発生する、その裏付けに商店街マップを据えよう。これが個店レベルでも実現可能な商店街発のイメージアップとコミュニティづくりである』という結論に至りました。
今後の事業展開・展望
この事業は松戸駅前商店街の個店の認知を高めるための第一歩ととらえています。
松戸市内は交通至便のため都内や隣接商圏への買い回りが容易で競合すること、周辺の適度な距離に複数のショッピングモールが存在することが特徴です。
48万人市民の多くの消費が松戸駅周辺地区以外に向いていることは各種調査から明らかです。これ以上の流出を食い止めるためには、まずは基盤となる地域の人々を、次いで近接地域の人々を、いずれも情報提供と親近感を伴い商店街で迎える手段を構築することが必須と考えます。
今後この地域の商業吸引力向上には行政側が進める地域ブランドづくりと呼応しながら中心市街地としてイメージアップを図り、情報的囲い込みを進めることが我々に出来る最善策と考えています。その上で商店街の個々の店舗には個性に磨きをかけ益々輝き続けて頂きたいと期待しています。(高山 勉)
『中小企業ちば』平成26年8月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)