テーマ : 柏駅周辺の活性化計画について
補助事業名 | 平成27年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 協同組合柏駅東口中央商店街連合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 石戸 新一郎 | |
住 所 | 柏市柏1-4-5 | |
設 立 | 平成25 年6 月 | |
業 種 | 小売業、飲食店業 | |
会 員 | 4人 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 商業連携支援部(℡ 043-306-3284) | |
専門家 | 柏の葉アーバンデザインセンター ディレクター 田口 博之 |
事業の活動内容
● 時代とともに変化する、街の環境
戦後の復興から高度成長の時代、私たちの先輩方は目まぐるしく変わる社会の変化に対応しながら、日々の生活を営み、街を形づくってきた。現在は、バブル経済の崩壊(1991)やリーマン・ショック(2008)などによる経済の低迷に加え、少子高齢化による低成長社会に突入しており、将来に渡り持続可能な地域の形成が大きな課題となっている。今後、更に人口が減少し内需が縮小するなかで日本の街の多くはいつ消えてもおかしくない状況にあり、中心市街地の活性化や再生、コンパクトなまちづくりが昨今の重要なテーマとされている。
そもそも、街とは人々が集団生活を営む重要なインフラであった。それは集まって住むことや商業集積による利便性を享受するといった合理的な側面だけではなく、居心地の良い快適な生活環境や賑わい、また歴史や文化といった付加価値を備え共有する空間である。しかし現代人の思考はプライバシーの重視が進展し、また流動的なものへと変わっている。交通網の発展や利便性の向上、ライフスタイルや価値観の変化、更にはインターネットによる情報量の充実や拡大するEC市場(電子商取引)、流動化した不動産といった様々な環境の変化も相まって、街の求心力を楯としたサプライヤー優位の時代から、消費者が自由に選択するユーザー主導の時代へと変化している。これは、街の存在意義そのものが問われていることに他ならない。ユーザーは、居住環境や行政サービス、職場環境や通勤、子育て環境の充実などの要因を加味して、より合理的に生活環境を選択することが可能となっている。今後は更に、選ばれる街とそうではない街の二極化が進むことが考えられよう。
「私が生活する街は、選ばれるだろうか?」
選ばれる街を目指すのか、そうではなくとも存続しうる街を目指すのかは、その街の状況や環境によって異なる。しかし、趨勢に任せられる街は皆無といえる。街の将来を想像し、具現化していく過程が「まちづくり」であり、私たち自らが街を存続させる為の戦略をもつことが必要となっている。本稿では、このような時代の「まちづくり」のあり方を、商業者達が先頭に立って実践している柏市の中心市街地の取り組みを例にしながら考えていきたい。
●柏駅周辺のまちづくり
柏市は千葉県北西部に位置する中核都市で、東京都心から30㎞圏内のベッドタウンである。東京都市圏の拡大に伴って柏市の都市化は進み、この40年間で市の人口は約2.4倍にあたる40万人を越えるまでとなった。JR常磐線と東武野田線、そしてつくばエクスプレス線(首都圏新都市鉄道)といった鉄道や、国道6号線と16号線、常磐自動車道などの主要幹線道路が交差する、交通の要衝ともなっている。
1970年代、柏駅周辺の市街地再開発事業によって日本初のペデストリアンデッキが整備され、柏そごうやファミリかしわ、柏髙島屋が相次いでオープンした。また、柏駅を中心とした16 の商店街が形成されることで駅周辺に高度な商業機能が集積し、柏駅周辺は広域商業の拠点としての地位を確立することとなった。
一方、郊外都市ならではの課題も顕在化しつつある。ベッドタウンとして発展した居住地の多くは、自然環境や近郊農業を減少させながら市域全体へと拡散し、日々の生活を自動車交通に頼る状況にある。また、医療施設をはじめとする公共施設や大規模商業施設(大型SC)の郊外化も進んでおり、特にこの10年間で郊外へ立地した大型SCの売場面積は合計81万平方メートルを越え、中心市街地に立地する百貨店等(売場面積計:約13万平方メートル)の6倍以上の規模となっている。そうした郊外の大型SCの攻勢に対し、中心市街地の発展を牽引してきた「そごう柏店」の閉店(2016.9)が決まったほか、吸引力の高いテナントが郊外の大型SCへ移行する傾向が見られるなど、中心市街地の衰退も懸念されている。また、駅前の不動産価値が高騰したことで個人商店は雑居ビルに取って代わることとなり、高い家賃収入を実現する一方で、全国チェーンの店舗で埋め尽くされた駅前商店街は他の都市との差別化が難しくなりつつある。
こうした課題を抱えながら、柏市の中心市街地は多くの市民によってまちづくりや商業環境の改善に積極的に取り組んでいることに特徴がある。特に、地域関係主体が中心となり長い年月をかけて取り組んだソフト事業は、街のイメージアップや集客効果を生みだし、近年では「若者が集う賑わいのある街」として高い評価を受けている。こうした事業は、「柏駅周辺イメージアップ推進協議会」の設立(1998)を契機として、「かしわインフォメーションセンター」や「ストリートブレイカーズ」、「JOBANアートラインプロジェクト実行委員会」などの多様な推進組織を設置し、行政等と協力しながら地元商店街のリーダーなどが中心となって運営されている。また、こうしたプログラムを体験した若い世代が新しいアイデアをもってまちづくりに参入しているとともに、街の飲食店の体験イベント「ユルベルト KASHIWAX」やコミュニティで地域の活性化を目指す「EDGEHAUS」、大学生や若い研究者と街場との連携による街の魅力向上と課題解決を目指した「柏クリエイティブベース」、更には、まちづくりの拠点となる「柏アーバンデザインセンター(UDC2)」の設立など、民間が主導する新たな活動の展開を確認することができる。世代がつながり連鎖しながら、中心市街地のまちづくりが継続して取り組まれているのだ。
近年では、柏駅東口のペデストリアンデッキの改修(2012)や民間の起案・出資による同地上部分の公共広場整備と運用、駅周辺の歩行者優先化へ向けた検討など、ハード整備に関する取り組みもすすみ、現在はUDC2等を拠点に関係主体が協力しながら、都市の魅力向上と維持に向けた都市像の検討や推進方法、街の再開発などについての検討も始まっている。
● 街を存続させるためのマネジメント
柏の中心市街地は、地元住民が中心となり時代のニーズに対応しながら、また様々な課題を解決しながら発展を成し遂げてきた。そして今、次の時代を見据えて、商業機能に特化した消費地から、魅力的で持続可能な都市へと街を再編し、その存在価値を高めようとしている。多くの都市では行政のみに「まちづくり」を委ねたことで他と見分けのつかない街となり、また衰退の危機にも直面している。これに対して、柏市のように地域の関係主体が主導した「まちづくり」は効果を上げてきた。特に、地元や民間企業、行政等が連携して、街の再生に向けて柔軟に取り組んでいる点が重要と言えるだろう。
街の大小に関わらず、社会の様々な変化に対応するためには、私たちは自分たちの街をどのように維持していくのかを改めて考える必要がある。その上で、地域が主体となって地域の価値を創造・維持・発展させるためには、柔軟なエリアマネジメントの取り組みが不可欠となる。否応にも縮小していく街を、消滅ではなく魅力的な街へと向かわせられるかは、これまでの常識や価値観を越えた行動に委ねられており、それは、行政のみならず、市民や民間企業、商業者や建物・土地所有者に至るまで、街に生きるあらゆる人たちに発せられる問いとなっている。
(田口 博之)
『中小企業ちば』平成28年10月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)