【答】
ポイント ★組合と理事個人の関係は委任契約 ★委任契約には「善管義務」がある
委任契約とは、委任者が「お願いします」とある仕事を頼んで、頼まれた人が「はいわかりました。お引き受けします」と承諾して成立する契約です。
「委任契約」は民法の「契約」のところに規定されています。民法の「契約」には、売買契約と雇用契約など十三種類が書いてありますが、委任契約はその中の一つです。
委任契約とはどんなものか、気になります。法律用語辞典(*有斐閣「法律用語辞典四〇頁)には「当事者の一方(委任者)が他方(受任者)に対して、事務の処理を委託し、他方がこれを承諾することによって成立する諾成・不要式の契約。労務供給契約の一種であるが、受任者が自らの裁量で事務を処理する点で、使用者の指揮によって労務を提供する『雇用』とは区別され、結果の完成を必ずしも必要としない点で『請負』とは区別される」とあります。
この委任契約で覚えておきたいのは、「善管義務」と「理事個人と組合の契約」の二点です。
「善管義務」とは「善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」というものです。例えば、組合の事務所に泥棒が入り、お金を盗まれたとします。調べてみると、理事が金庫に鍵をかけ忘れていた、この理事は金庫の管理を組合から委任されていたのに「善良なる管理者の注意」をもって管理をしなかった、悪いのは、委任された任務を怠った理事なのだから、盗まれた責任をとって損害を賠償しなさい、ということになります。
自分で盗んでもいないし、組合から役員報酬ももらっていない、それで責任だけは追及されるのではたまったものではない、と言いたくなりますが、委任契約とは引き受けたからには、善良なる管理者としての注意が必要な契約なのです。
善管義務は、自己の財産に対する注意義務と比較するとわかり易いかもしれません。善良なる管理者は、自己の財産に対する注意よりも重い注意が期待されているのです。
「理事個人と組合の契約」とは、組合と企業の契約ではないという意味です。理事は、個人として組合と委任契約を結んでいます。組合員になるのは会社そのものですが、理事になるのは会社法人ではなく個人なのです。
したがって、盗まれたお金を弁償する場合、理事個人の財布から出さなければいけません。会社から出すと税務上は会社の損金にはならず役員賞与とされる可能性(※国税調査会「協同組合の会計実務」松澤修著一九〇頁)があります。
(中小企業組合理事のためのQ&A/清水透著・2010年5月(新訂)第1版第1刷発行より転載)
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