テーマ : 経営力向上計画策定について
補助事業名 | 平成29年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 流山工業団地協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 菊地 憲悦 | |
住 所 | 千葉県流山市西深井字大堺1028番46 | |
設 立 | 昭和61年6月19日 | |
業 種 | 製造業中心の異業種 | |
組合員 | 15社 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427) | |
専門家 | 安藤 孝(中小企業診断士) |
事業の概要
平成28年の経営強化法施行により、経営力向上計画の申請・認定制度が開始されました。流山工業団地協同組合でも、生産性向上と固定資産税などの減免、補助金の加点などを目的に経営力向上計画の認定を推進することを組合員企業に推奨することとしました。今回の事業は組合員の中で経営力向上計画認定を希望する組合員を支援すると共に、組合員企業の生産性向上を支援するものです。
経営力向上計画について
①経営力向上計画とは
経営力向上計画は中小企業・小規模事業者(以下中小企業)の生産性を向上するために、国や業界の目標・方針に沿った経営計画を企業が作成し、国が認定して、様々な支援策を講じ、企業経営を支援するものです。平成28年に従来の新事業活動促進法を改訂、新たな経営力向上計画と従来からの創業や経営革新などを統合して経営強化法が制定されました。
②基本方針と業種別指針
経営力向上計画はいわゆる経営計画を策定するものですが、従来の経営革新計画が主に新規事業を中心とした計画であったのに対して、経営力向上計画は新規事業を含む本業の成長を支援するものです。経営強化法のスキームでは経営力向上計画を作成する上での基本方針及び業種別指針を国が設定しています。計画の策定に当たっては、定められた業種別指針に則った計画を作成することが必要です。平成29年6月時点で製造業、卸・小売、外食・中食など15業種で業種別指針が設定されています。例えば製造業の業種別指針では、製造業の現状認識・課題と共に目標として①労働生産性②売上高経常利益率③付加価値額の3つが設定されて、そのうちの一つを選択し、目標設定します。目標値もそれぞれに定められており、例えば労働生産性では、3年計画ではプラス1%となっています。
また、業種別指針では、経営力向上計画の中に「実施事項」が定められています。実施事項は①自社の強みを直接支える項目②自社の強みを更に伸ばす項目があり、①の中にはイ 従業員等に関する事項、ロ 製品製造に関する事項、ハ 標準化・知的財産に関する事項、ニ 営業活動に関する事項があり、それぞれ2~3の具体的実施事項が決められています。また、②の中にはホ 設備投資並びにロボット及びIT導入等に関する事項や省エネルギー推進に関する事項が定められ、これについても具体的事項が設定されています。
企業は経営力向上計画策定に当たり、企業規模に応じて①及び②から実施項目を選択する数が決められており、計画の中の実施事項として記述することが求められます。
③申請・認定手続き
申請手続きは、作成した経営力向上計画と幾つかの書類を封筒に入れて、提出しますが、提出先が事業分野によって異なるので注意が必要です。例えば製造業は一般には各地の経済産業局ですが、医薬品製造については厚生労働大臣宛となります。
④固定資産税等の減免
経営力向上計画認定のメリットは固定資産税等の減免です。やや複雑なので詳細な記述は省略しますが、固定資産税が3年間、半分になります。また、法人税についても、即時償却か又は取得価額の10%の税額控除ができます(中小企業経営強化税制と言う)。経営力向上計画は生産性向上を目的としていますので、固定資産税の減免などを受けるためには、一定期間内に販売されたモデルで、生産効率、精度、エネルギー効率などが旧モデルに比べて平均1%以上向上していることが必要で、これらについては各業界の工業会等の証明書の提出が必要です。
研究会の進め方
①経営力向上計画説明、情報収集
今回の研究会では、手を挙げていただいた複数社について認定支援機関として千葉県中小企業団体中央会の支援を受け、経営力向上計画の認定を目指しました。
先ず、経営力向上計画の概要について専門家から説明を受け、申請書の記載方法、申請方法、経営力強化税制の内容や制約条件などを理解しました。
申請書記載事項の中の現状認識の情報として、顧客、市場の動向などについて工業統計等の外部情報を収集して活用しました。
②原案の作成と内容検討
次に収集した情報をもとに、申請書の原案を作成し、認定支援機関の専門家と検討を行いました。
申請書の項目「4③ 当社の経営状況」についてはローカルベンチマークの財務分析を活用しました。また、「5.経営力向上目標」は業種別指針(製造業)の中から労働生産性を選定しました。3年後に労働生産性プラス1%を実現するための計画は、過去の決算書をもとに現状の労働生産性を計算し、3年後までの売上高、営業利益、人件費などを設定して算出しました。
③完成、申請、認定
その後、数回の修正を経て、申請書は完成しました。今回の研究会参加企業は設備投資による固定資産税減免等を目的としていますので、並行して工業会の証明書の取得手続きを行いました。参加企業のうち1社は型式番号が決まっていなかったため、申請書の項目「8.経営力向上設備等の種類」は記載せず、型番が決定した後、修正申請することとして、申請しました。
④その他
今回研究会の企業は、平成29年10月~12月に申請手続きを行い、平成30年1月までに認定を受けました。
経営力向上計画の活用
経営力向上計画は企業経営を計画的に行うための中期経営計画を作成するものです。先進諸国に比べて我が国の生産性の低さが言われており、特に中小企業の生産性向上が国の目標ともなっています。経営強化法のスキームでは、生産性向上という国の目標を達成するために、計画の内容について、かなり具体的に方針や業種別指針を示し、その方向に主導しようとしています。一方で、多くの中小企業は中期経営計画を策定することもなく、戦略的な経営をしてこなかったことも事実です。
経営力向上計画はこのような中小企業にとって経営計画を策定する絶好の機会になると考えられます。設備投資や省エネルギー投資といったハードによる生産性向上は重要ですが、製造業の指針が述べている人材育成、IT活用、財務・原価管理、知的財産、新製品開発などソフトな生産性向上策も合わせて実施していくことが重要です。
S社の事例
今回研究会に参加したS社の事例を紹介します。当社は鋳物製品の鋳型(中子)を製造している企業です。
経営力向上計画策定の目的は、新たな設備投資に関する固定資産税減免や法人税の税額控除ですが、一方で従来から積極的に業務改革を実践されており、今回の計画を業務改革の推進力の一環として考えています。具体的には経営力向上の実施事項として、通常は3項目のところ、6項目を指針の中から選定し、積極的な業務改革を目指しています。例えば多能工化のための人材育成、人材評価制度、業務の標準化・マニュアル化、生産管理のIT化、エコアクション認定などを実施事項としています。
これらのうち幾つかは既に着手されており、経営力向上計画を単に補助金加点の手段として捉えるのでなく、自社の戦略的経営の手段として活用されています。