テーマ :魅力ある職場環境実現に向けて
          経営者が 知るべき労務関連基礎知識について

補助事業名 平成23年度連携組織活性化研究会
対象組合等 外房物産協同組合
  ▼組合データ
  理事長 土屋 征雄
  住 所 いすみ市深堀 267-3
  設 立 平成17年7月
  業 種 水産食料品製造業
  会 員 25名(平成 24年 3月末現在)
担当部署 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(TEL043-306-2427)
専門家 浅山社会保険労務士事務所 代表 浅山 雅人(社会保険労務士)

背景と目的

  平成23年11月29日千葉労働局発表の「平成23年度上半期個別労働関係紛争解決制度の施行状況について」によると、千葉県内における平成23年度上半期(4月~9月の半年間)の相談、助言・指導、あっせん件数は次のとおりとなっています。
  ・総合労働相談2万1,842件(前年同月比1.4%増)
  ・民事上の個別労働紛争相談3,334件(同5.4%増)
  ・助言・指導申出受付351件(同4.4%減)
  ・あっせん申請受理142件(同57.8%増)
  相談件数が年々増加の一途を辿っていますが、その相談内容は、「労働基準法違反」や「解雇」「労働条件の引き下げ」「雇い止め(契約社員)」に関するものが多くなっています。
  働く側の高まる意識とは裏腹に、経営者とりわけ社内にエキスパートがいない中小企業経営者の「労務管理知識」の乏しさゆえにひとたび紛争が起きてしまうと、ただただ戸惑うばかりの状況になって背景と目的しまい、そこで初めて筆者に相談に来られるといったケースがままあります。
  事前に対策さえ講じていれば、こんなにまで問題がこじれなかった、または、紛争自身が起きていなかったのでは?というケースがほとんどで、担当者に任せきりになるのではなく、最低限の労務に関する知識は、経営者自身も身につけるべきであるとあらためて感じます。
  そこで、今般の外房物産協同組合の事業において、「経営者が知るべき労務関連の基礎知識」という標題の講習会を、最低限の理論武装をしてもらう目的で実施いたしました。(2日間で実施)

事業の活動内容

労働保険(労災保険・雇用保険)の基礎知識

①労災保険の基礎知識
  ・労災保険適用対象者
  ・労災保険の給付内容
休業補償等の各給付の具体的な計算法
  ・判断に困る「腰痛」や「過重労働」に伴う労災認定の実態
  ・自動車運転中の事故(通勤途上含む)における自動車保険と労災保険との調整方法
②雇用保険の基礎知識
  ・雇用保険の加入対象者の基準
  ・失業給付の給付日数や給付額の計算方法
  ・離職理由に失業給付の取り扱いの違い(特に契約期間を定めている場合)
  ・経営者が積極的に活用すべき「助成金制度」の具体的な内容


筆者の事務所でも助成金制度をフル活用しているので、その事例をお見せしながら

  ・60歳以上の従業員を、雇用保険の給付(高年齢継続給付)と年金を活用して継続雇用する具体的な工夫


★ 社会保険(健康保険・厚生年金保険)の基礎知識

①社会保険の調査のポイント
  年金事務所や会計検査院による社会保険の立会い調査の内容
②健康保険の基礎知識
  ・健康保険の具体的な給付内容
③厚生年金保険の基礎知識
  ・老齢厚生年金を中心に、在職する従業員にとっても、経営者にとっても有利なもらい方。


★労務管理の基礎知識

① 最初が肝心!雇用契約時のポイント
  ・雇用契約書の内容を如何に工夫するか
  ・ありきたりの誓約書では役に立たない
  ・入社後のトラブルを回避するために採用面接時に健康状態をチェックする方法
  ・管理職の処遇の仕方の実例
  ・基本給による昇給管理から役割に対する手当による昇給・降給管理の仕方
以上の内容を、参加者の企業様の実態を確認しながらできるだけわかりやすく説明した。

事業の成果

  2日間の講習会を通じて、日頃の労務管理について、見直すきっかけになったものと期待しています。先の見通しがつきにくい経営環境の中で、従来の慣れ合いの雇用関係を維持していくことができず、時には厳しい判断を迫られることがあります。そこで、今回の講習会の内容や他社の事例を参考に、ひとつでも取り入れて経営者事業の成果るものと確信します。
  折しも本講習会の第2日目の午前中に参加企業様に木更津労働基準監督署の監督官の予告なしの臨検がありました。
  これも本講習会をより身近に感じていただけるものとなりました。参考までに労働基準監督官の臨検があった場合に必ず指導される項目(限定列挙17項目)をあげさせてもらいます。
① 個別的かつ具体的な労働条件の明示が十分でない場合
②労働時間を把握していない場合
③ 労働時間の把握について自己申告制を採用しているが、勤務の実態から見て適正な申告がなされていない疑いがある場合
④ 指針の内容に適合しない36協定(時間外・休日労働に関する協定)により、または特別条項付き協定に基づき、恒常的に目安時間を超えて時間外労働を行っている場合(時間外労働をさせるには協定を締結しなければならない)
⑤ 時間外労働に関する記録が実態とは異なり、サービス残業の疑いがある場合
⑥ みなし労働時間制適用者の労働時間の把握が行われていない場合
⑦ 管理職の労働時間の把握が行われていない場合
⑧ 管理職として扱っているが、労働基準法上の管理監督者の実態に疑義がある場合(管理職の名称だけを付与し、時間外休日労働手当を支払わない=名ばかり管理職)
⑨ 労働者の相当数が法定休日労働を恒常的に月1回以上行っている場合
⑩ 振替休日を採用しているが、振替えた休日の相当数が取得されていない場合
⑪ 年俸制の適用者であって、管理監督者に該当しない場合(この場合年俸制でも時間外手当の支払いの必要があります)
⑫ ④の場合または36協定の限度を超える長時間労働が行われている場合で、健康の確保対策が実施されていない場合
⑬ 定期健康診断または要精密検査の実施状況が十分でない場合
⑭ 健康保持増進対策が講じられていない場合
⑮ 快適職場の形成対策が講じられていない場合
⑯ 試験・研究機関における災害防止対策等が十分でない場合
⑰ 安全衛生法上の安全衛生管理体制が不十分である場合(安全管理者・衛生管理者・産業医・安全衛生委員会の実施状況等)

今後の展望・期待

  今後一層、会社は徹底した利潤追求とコスト削減に努めていかなければ、生き残ることはできないでしょう。そのためには、職場を魅力あるものとして、在職する従業員にヤル気をもって勤務してもらわなければなりません。この相矛盾するようなことにバランスを保ち、さらにコンプライアンスが求められる状況下では、人事労務管理の重要性は増すものと考えます。
  今は目立った問題がないからではなく、そういう時期だからこそ現状をキチンと把握のうえ、見直すべきものは、積極果敢に決断し見直すべきでしょう。事が起こってからでは手遅れです。
  本講習会がその一助にもしなったとしたら、講師冥利につきます。
  (浅山 雅人)


『中小企業ちば』平成24年8月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)