テーマ : 地域団体商標登録による組合活性化について
補助事業名 | 平成26年度連携組織活性化研究会 | |
対象組合等 | 鴨川温泉旅館業協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 久根崎 達郎 | |
住 所 | 鴨川市横渚945-2 | |
設 立 | 平成 23 年 6 月 | |
業 種 | 旅館,ホテル | |
組合員 | 22人 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427) | |
専門家 | かちどき特許事務所 所長 髙橋 幸夫(弁理士) |
背景と目的
地域団体商標制度は、地域と密接な関連性を有する商品又はサービスに、当該地域名を冠した商標を使用して、他の地域の商品又はサービスと差別化を図ろうとするもので、平成17年の一部改正により導入され、平成18年4月1日より施行されています。
地域団体商標は、平成28年1月12日現在、全国で597件、千葉県では14件(「房州びわ」、「八街産落花生」、「市川のなし」、「市川の梨」、「富里スイカ」、「矢切ねぎ」、「小湊温泉」、「安房菜の花」、「船橋にんじん」、「銚子つりきんめ」、「しろいの梨」、「勝浦タンタンメン」、「船橋のなし」、「鴨川温泉」)が登録されています。
「鴨川温泉 なぎさの湯」に関して他の温泉と差別化を図ること、同じ鴨川市内にある小湊旅館業協同組合が、「小湊温泉」を、平成20年8月15日に、地域団体商標の商標権( 商標登録第5160128号)を取得して、一定の成果を出していること等を考慮し、鴨川温泉旅館業協同組合において「鴨川温泉」の地域団体商標の商標権の取得を目指すこととなり、準備を開始し始め、今回の事業となりました。
事業の活動内容
①商標登録出願の準備等
「小湊温泉」がどのような書類を提出して商標登録に至ったかを知るため、「小湊温泉」を商標登録するために特許庁に提出した書類を全て入手しました。
入手した書類を検討し、商標法7条の2第1項に係る商標として需要者の間に広く認識されている(以下、「周知性」という。)ことを証明する書類の準備を開始しました。
宣伝広告は数多く行っているものの、最初に組合から提示された宣伝広告の中には「鴨川温泉」が単独で明確に表示されたものが多くなく、「周知性」を証明するための宣伝広告を選択するのに苦労しました。
組合の構成員に、「地域団体商標制度」について解説し、「鴨川温泉」が目立つように単独使用されている例などを説明したところ、組合の構成員等の努力により、「小湊温泉」より多くの「周知性」の立証書類が集まりました。
当初、平成26年度内に商標権を取得するため、平成26年6月に地域団体商標の商標登録出願をする準備を進めていましたが、「周知性」の立証書類の準備の関係上、二ヶ月遅れの平成26年8月1日に、地域団体商標の商標登録出願を、特許庁に対して行いました。
②拒絶理由通知の受領
必要な書類は全て提出したため、登録査定(拒絶理由は発見できない)が来るだろうと考えていましたが、予想に反して、平成27年1月5日に特許庁から拒絶理由通知が来ました。
拒絶理由通知には、提出された書類だけでは「周知性」があると認めることができない旨が記載されていました。具体的には、「小湊温泉」の場合とは全く異なり、広告等の時期、回数、地域、ちらし等の配布時期、配布部数、配布先、催し物の来場者数(県内・県外別)、施設別宿年間宿泊数(県内・県外別)を明確にすると共に、追加の証拠書類を提出する必要があることが記載されていました。
審査官の指摘に従い、既に提出した書類について要求された項目を証明し、かつ、追加書類を提出しなければ、商標権を取得することができません。
③「周知性」の証拠の準備等
拒絶理由通知の内容を検討して、組合と共同で、提出した書類の証明作業と追加書類の探索作業を行いました。
以前行った「周知性」の立証書類の収集作業等により、組合の構成員の意識の持ち方が変わり、組合の構成員が「鴨川温泉」を目立つ位置に単独で使用している広告が数多く見つかりました。また、過去の使用例も更に出てきました。
審査官の要求する書類等を全て網羅した意見書を平成27年2月16日に特許庁に提出しました。
④ 登録査定の受領、商標権の設定登録
意見書を提出した後、審査官から問い合わせの電話がありましたので、「周知性」があることを力説し、更なる証拠書類の提出も可能であることを伝えました。
平成26年度内には間に合いませんでしたが、平成27年6月3日に、待望の登録査定が来ました。
登録料の納付後、平成27年6月26日に、商標登録第5773790号として、商標権の設定登録がされました。
事業の成果
今回の事業を通じて、組合の構成員が、「鴨川温泉」を、自社のサービスと他地域の同業他社のサービスとを区別する標識としての使用(商標的使用態様)を行おうとする意識が向上したことを痛切に感じました。
ほんのりと硫黄が香る単純硫黄冷鉱泉の「なぎさの湯」の泉質は、他の温泉と比べても、見劣りするものでなく、むしろ優れているといえるため、「鴨川温泉」を目立つ位置に、商標的使用態様で使用すればする程、「なぎさの湯」の良さが、利用者から伝わると思います。
今後の事業展開・展望
商標法は商標の使用をする者の業務上の信用を図ることを目的としています(商標法第1条)。
商標権の取得によって高まった「鴨川温泉」のブランド力を活用しなければ絶対に損です。今まで以上に、「鴨川温泉」を目立つ位置で単独使用することにより、登録商標「鴨川温泉」が持つ商標の機能が発揮され、「なぎさの湯」の優れた点が一般大衆に伝わっていくはずです。
今回、地域団体商標の商標権を取得した「鴨川温泉」が価値を生み出すかどうかは、組合及び組合の構成員の今後の広報活動に依存すると考えられます。
また、「鴨川温泉」を商標登録したことによって、組合と組合の構成員が「鴨川温泉」を独占的に使用することができるようになりましたが、組合のイメージアップ等の保証はありません。
特に、宣伝等の手段を用いて登録商標「鴨川温泉」を使用し続ける地道な活動が非常に重要となります。
起こり得ないことであるとは思いますが、もし、組合及び組合の構成員が登録商標「鴨川温泉」を単独使用することを怠り、登録商標「鴨川温泉」の「周知性」が商標法7条の2第1項の要件を満たさない状態になれば、登録無効審判で「鴨川温泉」の商標登録が無効になります。
つまり、「鴨川温泉」の「周知性」を維持し続けなければ、せっかく取得した商標権が消滅する可能性があるということにも留意しなければなりません。
鴨川温泉旅館業協同組合及び同組合の構成員の益々の発展を期待します。(髙橋 幸夫)
『中小企業ちば』平成28年3月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)