テーマ : 組合員間業務連携ネットワークシステムの構築について
補助事業名 | 平成27年度組合等新分野開拓支援事業 | |
対象組合等 | 千葉県自動車車体整備協同組合 | |
▼組合データ | ||
理事長 | 長嶺 隆路 | |
住 所 | 佐倉市宮本字手洗199 | |
設 立 | 昭和58 年3 月 | |
業 種 | 自動車整備業 | |
会 員 | 139人 | |
担当部署 | 千葉県中小企業団体中央会 工業連携支援部(℡ 043-306-2427) | |
専門家 | HYC株式会社 代表取締役 吉野 一 |
背景と目的
近年、自動車は環境保全(排出ガス規制)と搭乗者保護(衝突安全性確保)を両立させるために、軽量で超強度の車体構造と高度の電子制御システムを搭載しており、これら自動車の補修時の品質を確保するためには高度な整備技術と最新設備を備える必要がある。
しかしながら、多くの整備事業者においては、これらの最新自動車の補修整備を自社内で一貫して行うための人材育成や設備投資など自動車の進展に追いつかずにいることから、組合としては、品質の信頼性が高い補修車を消費者にお渡しするための方策として、複数の事業所が連携して整備品質を確保するための補完体制を構築する。
なお、このネットワークは、以下の点を念頭に構築する。
(1)千車協ブランドの下で、均一で良質な品質とサービスをカーユーザに提供(信頼性向上)
(2)会員事業所間の事業連携による利益を生む
これにより、競合他社との差別化を図り、新規顧客の開拓やリピート顧客の囲い込みを目指す。
事業の活動内容
① 複数の事業者が連携するために必要な定量的なルールを設定
複数の事業者が連携して整備品質を確保するためには、以下の点について共通の認識を持ち、それぞれの項目について定量的なルールを設定する必要がある。
(1)品質管理:最新型車に対応する標準作業工程、品質基準、品質証明の仕組みを設定。
(2)要員資格:作業別の要件に応じ、有資格条件を設定。
(3)設備条件:作業品質の確保に必要な工具、機器、設備の種類・仕様と管理基準を設定。
(4)情報管理:技術情報の管理基準を設定。
(5)履歴管理:修理作業の記録すべき事項と記録方法について標準作成。
(6)工場分類:作業内容、対象車、工場設備、要員資格など受入規模を工場別に整理。
(7)構成基準:全ての作業工程を完結させるネットワークの区割り(例:支部単位)。
(8)受渡方法:発注(外注)、車両預かり、検収などの作業の標準化。
(9)契約条件:請負作業の責任範囲、料金設定、精算方法などの取り決め。
(10)企業リスク:クレーム処理体制。入庫車両の管理賠償・修理賠償への対応策。
(11)認定車:修復車の千車協・認定基準と認定証明の形式を決める。
(12)広報広宣:カーユーザ、損保などに向けて、組合HPやチラシを活用。
(13)運営管理:特定工場と限定工場との連絡協議会(例:支部会)を設けて諸課題を協議。
② ITを活用した試作システムによる試行
自動車の高度化(軽量化、電子制御化)により、車体補修に伴う作業項目の増加と共に、作業手順も複雑化していることから、研究会では、今年度業務連携に必要な定量的なルール、特に作業工程や品質などの管理を行うための仕組みを検討する上でも、本番での使用が想定されるITを活用した車体整備作業の品質工程管理システムを用いて検討を進めることが必要であると見解が示された。
③ 試作システムを用いた試行の結果、明らかになった課題
研究会での議論および試作システムによる試行を通じ、業務連携実現のためには、克服しなければならない課題が多くあることが判明した。明らかになった課題を以下に整理する。
(1)業務連携の仕組みを構築する上での課題
『事業を進めていくにあたり最も重要なことは、業務連携の意義に関する認識の共有である。』ことを常に意識できる体制の構築である。
(2)ITシステムの課題
試行の結果明らかになったITシステムに関する課題は、以下の通りである。
①『ITを使った試作システムの使用そのものがプラスアルファの業務となるので、手間が増えると感じてしまう。』という、導入初期段階の良くないイメージの克服。
②『写真のアップロードには、専用アプリではなく日常使用しているLINEなどのアプリを利用したい。』などの、組合員が日常使用している様々なシステムとの連携による、使用環境の改善。
③『すべてを紙ベースで行う連携をIT化して合理化するのであれば、手書き見積もりを見積もりソフトに置き換えることにより作成作業を合理化するのと同じ効果があると感じられるが、今回はそうではなく、いきなりITシステムを使用することになったため、連携業務とITシステムという二つの新しい要素を理解し実践しなければならないとうところに高いハードルを感じる。』との意見から分かる、業務連携を行う上での課題とITシステム固有の課題との切り分け。
事業の成果
試作システムによる試行の結果、2016年2月27日に開催された第6回研究会において、事業の成果として、以下の合意形成がなされた。
(1)業務連携について
①業務連携の意義の再認識を再確認し、全組合員が一致団結してその実現に取り組む。
②業務連携こそが組合員の生き残りを実現する手段であることを再認識し、実現を目指す。
(2)ITシステムについて
①使えるシステムの構築が業務連携のカギであることを再認識し、全員が使えるシステムの構築を目指す。
②多くの組合員の手で「試行段階を踏む」ことが、使えるシステムを構築する必要要素であることを再認識し、試行期間中に参加できなかった組合員にも試行を継続する。
今後の事業展開・展望
千葉県自動車車体整備協同組合が『事業所間業務連携ネットワーク研究会』を立ち上げて取り組む『事業者間業務連携』には、車体整備業界において事業者が生き残っていくための明確な意思と方法論があり、その必要性は疑うべくもない。
誰も経験したことのない取り組み故、解決しなければならない課題も少なくないが、この取り組みそのもの及びその果実として得られるビジネスモデルの運営は、事業協同組合でなければ達成できないことから、活動には業界の内外から大きな期待が寄せられている。
(吉野 一)
『中小企業ちば』平成28年11月号に掲載 (※内容・データ等は掲載時の物です)